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連載コラム 『NEW VOYAGE!!』

画像: 「『命』について~不味いとか、気持ち悪いとか~」

「『命』について~不味いとか、気持ち悪いとか~」

2021年05月24日

皆さんこんにちは。5月も下旬になり、暑いと感じる日が増えてきましたね。田んぼの稲も青々と育ち、畑の小麦は黄色く色付いてきました。毎日歩く田んぼ道も、同じように見えて、毎日景色が違いとても面白いです。

さて、先日、家族でさくらんぼ狩りに行きました。大きなハウスに入ると、一つの木に物凄く沢山のさくらんぼが実っていて、皆で歓声を上げてしまいました。一つの枝に、物凄い数のさくらんぼがみっちりたわわにぶら下がっていて、とても驚きました。

受付を済ませて、さくらんぼについてお聞きすると、品種名と特徴を教えて下さいました。品種名は初めて聞くもので、味は、「甘みが少なくすっぱい品種」だということでした。

以前、山形県でさくらんぼ狩りをした時、物凄く甘くて美味しいさくらんぼをいただいた私たちは、一口そのさくらんぼを食べて、甘みが少なくすっぱくてびっくりしました。さくらんぼは、高価で普段食べなれないからこそ、さくらんぼの味って一部しか知らなかったんだなと感じました。

そして、「この品種は、一つの木に物凄く沢山実る代わりに甘みは少なくなるのかな。」、「水の量や時期も影響するのかな。」等と考えたりしました。そして最終的には、「この木の中で食べ頃の実はどれだろう。」と真剣に目利きして、「やっぱり色が真っ赤で濃いものが美味しい。」「太陽によく当たる位置のものが美味しい。」等と発見して、わいわい楽しく戴きました。

鳥も私たちも甘い実を食べたいのは同じで、だからこそ、生き物にはそれぞれに必要な色覚が育っているのだなということもしみじみと感じました。食べていると、「あっ、これ当たり!!」とか、「あっ、これ木みたいな味がする。」とか、一見割れて食べられないかと思っていた実が甘い確率が高いとか、本当に色々な気付きもありました。

さて、さくらんぼ狩りをしていた時、「このさくらんぼ、味が薄い。美味しくない。」と言っている人は一人もいませんでしたが、普段、食材や料理が少し希望と違うだけで、「美味しくない。」「これは嫌。」と簡単に言っている場面も多く見かけるなと思います。

私たちは自然の近くにいる時、自然に触れている時、つまり自然に融合している時、その自然や命に対して、自然と畏敬の念が生まれて、文句を言う気にはなれないものです。

でも、近年は、子どもが自然遊びをする機会が減り、農作業に触れる機会も減り、自然や命に対して切り離された感覚を持っている人が、大人も子どもも多いのではないかなと感じます。

「自然に生かされている」感覚や、「全ての命、そのものがそのままで有難い」という感覚が薄らいでいるということを感じるのです。

食べ物に対して「美味しい/不味い」「高い/安い」とだけ判断していることや、虫に対して「好き/嫌い」をあからさまに出して、ペットとして猫可愛がりしたり、よく見も考えもしないで毛嫌いしたりすること、酷い場合は、「気持ち悪い」という言葉を向けていることは、日常にありふれているのではないでしょうか。

私は、命に対するそのような扱い方に、とても違和感を覚えます。

一つの種が大地に落ちて、種から根と芽が出て、太陽が差し、雨が降り、芽が伸びて、風が吹いて病気も防ぎ、虫が受粉をしてくれて・・・これは、人間のなせる業なのでしょうか。人間がしていることでは全く無いのです。

この、自然と命の本質から切り離されて暮らし、間違えた認識を受け継いで、本質に対して鈍くなってしまっているのが、最近の私たちなのだと感じます。

本来、私たち人間は、多くの物を持たなくても、「自分を育んでくれる自然=生命体=食べ物」と「自分の命」「家族」があれば幸せに生かされます。

スーパーの野菜で言えば、「虫食い」のあるものや「土付き」・「葉っぱ付き」のもの、「形が正対称でない」もの、ましてや「虫の付いた」ままのもの等店頭に並んでいません。味は、「甘さ」競争が激しく、色も、「カラフル」競争が絶えません。

調理では、昔ながらの和食の薄味の煮物、味噌等の発酵食品等は好まれにくくなり、洋食のスープやソース等濃い味付けが好まれ、野菜や豆よりは、お肉が好まれるように変化してきています。写真映えさえよければ、味や素材は気にしない、安ければどちらの野菜でも良いという感覚の方も増えてきていると思います。

食べ易いもの、美味しいものを追求することは悪いことではありませんし、味付けも好みで自由です。しかし、自然に生かされていることを忘れて、変に我儘になったり、本来一番大事ではない表面的なことを重要視して食材や料理を捉えたりしてしまっていて、自然の味を素直に味わうことから遠ざかっているのは、良くないことでもあるし、不幸せなことだと思うのです。

子どもは、初めて虫を見た時に、虫を毛嫌いすることはありません。初めてゴキブリを見て、他の虫以上に拒否反応はしません。ニュートラルに、「何だろう。」「凄い、動いてる、生きてる!」と感動し、観察したり、触ったり、捕まえたり興味を示します。

大人も、自分の価値判断を一旦脇に置き、ニュートラルに自然や命を見つめ、ただただ何かに許され生きている自分自身を感じることができた時、本当の心の安らぎと幸せに出会えるのではないかと思います。


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